桃の節句とおひなさま
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       




寒暖の差がまたぞろ急激に乱高下し始めて。
この週は結局四月中旬とまで上がったぽかぽか陽気も、
週末には雨となり、
それが上がればまたぞろ冷え込むそうだけれど。

 「そんなの関係ありませんvv」

そんな週末を前に、
春仕様のメニューへの移行のためと銘打って、
月に一度の休業日を持って来てくれた、
それは優しい許婚者さんと共に、
午後は腕組んでのお出掛けならしく、

 『スケートの短期集中レッスンなんですよぉvv』と

ハート飛び散らかしてお先にと教室から駆け去ったのが、
ひなげしさんこと、林田さんチの平八お嬢さん。
うっかりとコートをラックに忘れかかり、
“てへvv”なんて
満面の笑みを振り撒きながら駆け戻ってくるところなぞ、

 「足が地についていなかったかも知れませんね。」
 「…、…。(頷、頷・笑)」

日頃からも楽しげに笑顔でいることから、
愛らしいのに鼻にかけない、
気さくなひなげしさんで通っている彼女ではあるが。

  とてもそうとは見えない級での
  “作り笑い”も実はお得意だったりするお人なので

それが今日は朝早くから、
一片の作為もない、純粋なる笑顔を通しているところが、
見分けがつくからこそ微笑ましくって仕方がないと。
うふふと楽しげに、その頬を緩め合っていたこちら様。
下級生たちから“白百合様、紅バラ様”と、
そりゃあ高貴なお花に例えられたる、金髪の美少女が二人ほど。

 「あれでは“スケート教室への予行演習”というよりも、
  ごくごく普通のデートと変わりありませんね。」

それは目映い陽気の差し込む窓辺に並んで、
互いの淡色の髪、
それはもうもう神々しくも燦めかせておいでの少女二人。
お友達の幸いとその弾けっぷりへ、
“もうもう やに下がってしまわれてvv”と
苦笑しているだけなのにもかかわらず、

 「あれ、白百合様の何て慈悲深い微笑まれようでしょうか。」
 「紅バラ様も…あんなに目許たわめて優しげにvv」

きっとひなげし様のところへ、
アメリカからご両親がお越しとか、
それでなければお電話が掛かってくるとかするのよ。
そうそう、それでお幸せそうなのを、
我がことのように慈しまれて、
それでと微笑まれておいでなのだわ…と。
クラスメートの皆様のみならず、
通りすがりの下級生までも。
お美しき想像の世界へ羽ばたかせるべく、
とんだお手伝いをしてしまうほど、
それはそれは罪な微笑を零しておいでの、
いづれが春蘭秋菊か、当学園きってのお美しい二人だったりし。
片や、絹糸のようなストレートの金髪を、
今日は細めのカチューシャで押さえての品よく流し。
甘くたわめた双眸の青玻璃が映えての馴染む、
すべらかな頬の白さの何と嫋やかなことか。
はたまた片やの令嬢はと見れば、
毛先になるほど癖のある髪が、
肩先で軽やかにふんわりと広がる様なぞ、
聖画の天使さんもかくあらん愛らしさ。
目許をちょっぴり覆う前髪の下には、
こちらさんは紅玻璃の双眸が、
やや吊り上がり気味に座っておいでだが。
面差しもどちらかといや鋭角で、
細い鼻梁に肉薄な唇という端正なお顔へ、
表情を載せないままでおいででは、
冷然として見え、取っ付きにくいコト、この上ないが。
(そして“そこがいい”と仰せのお人も少なくはないのだけれど。)
お隣りに並んでいたお友達が、
何かしら気がついて、優しい笑みにて目許を細めつつ、
白い指先でセーラー服のおリボンなぞ直して差し上げれば、

 「〜〜〜。////////」

あっと言う間に雰囲気が豹変し、
どこかたどたどしくも ぽうと頬染める初々しさが何とも意外で。
そんな落差を一度でも目にすれば最後、
なんてまあまあ愛らしい方なのかという貴重な一瞬、
もう一度見たくなってのこと、目が離せなくなるのだとか。
そして、

 “幻想は遠くて高い方が見上げ甲斐もあるんでしょうね。”(おいおい)

内心でそんな呟きを七郎次が零したように、
自分たちへと向けられる視線や関心に、
そういうフィルター、かかっているらしいとの自覚も、
多少は持ち合わせておいでの彼女らなようで。
他愛ない程度のことならば、
それは誤解というものですよと、
いちいち弁明することもなかろうと。
夢(ロマン)は夢のまま、堂々と放置しているご両人でもあり。

 “…といいますか、
  そこまで自惚れてはないですし、何より暇でもありませんので。”

こちらはこちらで、
お年頃の高校生としてやっぱり忙しい日々を送っているのだ。
他人の構える勝手な妄想にまで、わざわざ付き合ってはいられない。

 「さて、それでは私共も参りましょうか。」
 「…、…。(頷、頷)」

相変わらずの受験シーズン真っ只中。
よっての短縮授業期間でもあったので。
平八が五郎兵衛殿を掻き口説き、
苦手なスケートの練習にと引っ張り出したように、
こちらの二人にも放課後の予定はあったりし。
朝方は少しほど寒かったのでと着て来たコートが、
もはやお荷物以外の何物でもない代物になり果てたほど、
気温も上がってそれはいいお日和となったその中へ。
その縁から光があふれ出すほど目映い昇降口に向け、
ひだスカートの裾、ひらり ひるがえし。
学園が誇る銘華のお二人、
前になり後になりと ちょっぴりはしゃぎつつ、
厳かな佇まいの学舎を後にしたそうな。






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